美味しいしあわせ

くつろぎのひと時のお料理やお菓子とお酒 季節の花と緑

金目鯛と蓮根餅の蒸し物 第三話


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お口に合いますかしら

座敷の客も出された一通りの料理でしばらくは楽しくやるのだろう

一息ついた顔で女将が話しかけてきた

えぇ塩梅が丁度いい 昔から知っているような懐かしい味がします

つい言ってしまってから何か思わせぶりに取られやしないかと一人緊張したが女将の方はそれは良うございましたと微笑み まな板の上で柔らかそうな新生姜を針のように刻みだした

よろしければ蒸し物なんていかがかしら

今日は金目鯛のいいのが手に入りましたの

とすすめるので ではそれをと最後のビールを飲み干す

我ながら今日は少しペースが早い

熱燗を頼んで座敷の客達の賑やかなのを聞く

漏れ聞こえる話から

どうやら大阪在住の北海道大学出身者の同窓会らしい

北海道大学には一度出張の時寄り道して見学したことがある

BOYS BE AMBITIOUSで有名なクラーク博士だが 晩年の彼は彼の抱いた大志のために借金を抱え孤独に亡くなったことを何かで読んだ

自分の大学の同窓会も就職した当初仲間内で頻繁にやっていたが既婚者が増える度集まる回数も減り今ではほとんどみんなで会うことはない

たまにポツリと友人から連絡があると二人で飲みに行く程度になった

田宮の駆け落ち話は卒業して半年経った頃に開いた同窓会で聞いた話だった

女将が手際よく用意した器を蒸し器に入れると頼んでおいた熱燗が丁度いい頃合いに温まって出てきた

どうぞと趣味のいい備前焼のお猪口を置くとお酌をしてくれた

しばらくして蒸したての金目鯛の蒸し物が出てきた

箸で2つに割ると中には蓮根餅の柔らかく蒸されたのが忍ばせてあり出汁の効いた餡と針生姜が魚の旨味をうまく引き出していたf:id:habbule-no-neko:20240330201642j:image

☆レシピ☆

「金目鯛と蓮根餅の蒸し物」

(材料)4人分

金目鯛 2尾

蓮根 300g

片栗粉 少々

うどん出汁つゆ 1パックf:id:habbule-no-neko:20240330214639j:image

片栗粉か葛粉 適量

新生姜 適量

三つ葉飾り用

(作り方)

・新生姜は針生姜に切っておく

三つ葉を洗って用意しておく

・金目鯛は鱗を取り頭を落として骨を取り身だけ切り出す

身の中の骨も骨抜きで取り除きすべて食べられる状態にする

水でさっと洗ってバットに酒(分量外)を入れて金目鯛の身を洗いキッチンペーパーで拭き取る

表裏さっとほんの軽く塩してバットに置きラップして冷蔵庫に置いておく

・最初に片栗粉を少量のうどんつゆで溶かしつゆを入れた鍋に入れ全体をよく混ぜて火にかけトロミをつける

・蓮根を洗って皮をむいてすりおろし水分を少し絞って捨て片栗粉少々する

・器を用意して蓮根を丸めて金目鯛で上から包んで入れていく

・蒸し器の蓋に日本手ぬぐいを巻いてつゆが滴らないようにする

蒸し器の底に水を張り沸騰したら器を置いた蒸し器をセットして蓋をして10分蒸す

・蒸し上がれば出汁をはり上に針生姜と三つ葉を飾って熱々をお出しする

 

うまい 思わずこぼれた独り言に満足そうに微笑むと女将は座敷の客達にまた次の料理を運びはじめた

それにしても小さな店とはいえ女将一人で切り盛りするのはさぞや大変だろう

美しい顔立ちに少し影を感じるのは夫を亡くした不幸からくるものなのか

だがその憂いを含んだ儚げな美しさは彼女の哀しみを餌にしてより一層その美しさを際立たせていた

そんな危うさにつけいる男たちもいるのであろう

カウンターに亡くなった夫の写真を置いているのもちょっとしたお守り代わりのつもりなのかもしれない