冬枯れの川の畔にある
とある小さなフレンチレストランに行ったといたしましょう
そこは昔からある 通の通う名店
そこで戴いたフランス料理のフルコース
今日のお料理 どれが一番美味しかった?
と聞かれて
「そうねぇ
どれも大変美味しかったけれど 一番印象に残ったのはあの小さなスープだったわ」
私にとってそんな建物です
小さくシンプルだけれど大変手がこんでいて
時間と手間をかけて出されたスープ
心をほぐし 温め 後に続くお料理を
高揚感をもって臨むことが出来る一皿
中之島に建つ豪華フレンチの如き濃厚な
ネオ・ルネッサンス様式の建築群にあって
この近代建築の外観はシンプルで
まわりの豪華建築群に溶け込みながらも
重厚な中之島の重く長い歴史に
新しい息吹を送り込む一棟
一歩足を踏み入れると
そこには時間をかけて考え抜かれた
美しい空間が複雑に入り組み
私たちを好奇心の森深くいざないます
建築家安藤忠雄氏によって設計 建築され
寄附されたもの
中之島の景色を作ってきた
大阪の知識人たちの
ノブレスオブリージュの気概は
今の時代にあっても生き続け
その魂の根は深く
過去のものではないことを伝えてくれます
安藤忠雄氏は皆さんご存知
建築界の巨匠であり 大変な奇特家です
「お金は持って死ねない」
とあらゆる寄附活動を自ら立ち上げ
一つの運動へと進化させ
自らの寄附と共にまわりの企業や個人にも参加を呼びかけ継続的な支援を行われています
東日本大震災の遺児のために設立した「桃・柿育英会」は毎年1万円の寄付を10年間続けようというもの
設立後半年で1万7000人もの人が賛同し
総額は約52億円にのぼり被災3県を通じて約1900人の遺児に支給されました
また「瀬戸内オリーブ基金」を設立
ユニクロでお買い物をされたらお会計の横にこの基金の募金箱を目にされたことのある方もいらっしゃると思います
この基金 元は1990年代の日本最大の不法投棄事件「豊島(てしま)事件」を受けて安藤忠雄氏とその事件を担当した弁護士中坊公平氏とで設立されたものです
瀬戸内の美しい島に不法投棄された有害物質は行政の許可を得て長年見過ごされ公害問題へと発展しました
25年の闘いの末行政が責任を認め撤去を開始しかし地下の汚染水等自然破壊が深刻でした
それを受けて事件を担当した弁護士の中坊氏と共に安藤忠雄氏が「瀬戸内オリーブ基金」を設立
汚染された島に緑を取り戻そうとオリーブの木を植える活動から発展し
海岸清掃や勉強会など
自然保護を考え活動する基金となっています
大阪に新たな桜並木を作り街の景観を市民の手で創り出そうという桜の木の植樹基金
などなど
数え上げればキリがないほど様々な問題を
提起し支援をされています
「こども本の森」も
彼が継続的に行っている寄付活動の一つです
「こどもたちに多様な本を手にとってもらい
無限の創造力や好奇心を育んでほしい
自発的に本の中の言葉や感情アイデアに触れ
世界には自分と違う人や暮らしが在ることを
知ってほしい」
そんな想いから安藤氏が設計 建築し
建物を自治体に寄付しています
運営は個人や法人による寄付で賄われ
オンラインで予約することで
誰でも利用することができます
入口の青いリンゴは
米国の詩人サミュエル・ウルマンの詩「青春」がモチーフで「青春とは人生のある期間ではない。心のありようなのだ」という詩に共感した安藤さんが「目指すは甘く実った赤リンゴではなく未熟で酸っぱくとも明日への希望へ満ち溢れた青りんごの精神」という想いで青春のシンボルとして作られました
現在 岩手 神戸 大阪 熊本 北海道に
図書館の建設が実施または予定されています
そんな安藤氏の活躍は日本にとどまらず
海外からのオファーもひっきりなし
フランスの美術館「ブルス・ドゥ・コメルス」の改修なども手掛け大忙しの方ですが
実は2024年現在で82歳!
2度の手術で胆のう 胆管 十二指腸 脾臓 膵臓の5つの臓器を全摘出していらっしゃいます
そんな安藤忠雄氏の来歴について少しお話をさせて下さい
彼は大阪市出身
下町の長屋で育った彼の最終学歴は
経済的理由で大学への進学を断念した彼は
卒業後お金欲しさにプロボクサーのライセンスを取得し活動します
しかし1年半で見切りをつけ引退
その後独学で一級建築士の免許試験を受け
一回で合格!
これ ホントに凄すぎます!!
その後世界を放浪し のち
その時得た感覚を活かし建築士として活躍
現在に至ります
幼い頃の貧しい体験や経済的理由により勉強する機会を得難かったことなどは
後の様々な社会運動とリンクし 基金設立
私財の寄付などへの動機にもなっているように思われます
川向うには北浜の「大阪証券取引所」を眺め
隣には「東洋陶磁美術館」
道を挟んで「中央公会堂」「中之島図書館」「大阪市役所本庁舎」「日本銀行大阪支店」と豪華建築群が連なります
置かれた椅子には良い家具に触れる体験をして欲しいとのこだわり
言葉の彫刻とされるこの文字は本を開かなければ読めない文字に触れることできっかけをつくります
5段目以上の本には地震対策がなされつつ
背表紙ではなく表紙がみえるように配置
休憩室とされるこの円筒形の空間の壁には物語の一節が映し出され動きます
本で満たされた空間に抜け感を作る
ガラスのスリット
図書館の正式な種別による分類ではなく
興味の対象で分類されたこども本の森ならではの展示は大人のココロにも好奇心を芽生えさせます
懐かしい!と思うものから
ナニコレ?というものまで
ワクワクが止まりません!!
大好きな本の「森」に囲まれる空間
どこで読んでもいいよと椅子や階段があり 中之島公園内なら持ち出しOKという
本を読む幸せを最大限に体験出来る施設となっています
本棚には我が家の想い出のご本もありました
娘との読書の想い出は
「大どろぼうホッツェンプロッツ」
息子とは
「怪人二十面相」です
彼が小学1年生の時に私の大好きだった本
「怪人二十面相」シリーズを与えましたが
まだ漢字の読めない彼のために
すべてのページの漢字にフリガナをふって渡したところ大喜び
「読書大好き!」の
最初の一冊となってくれました
ただ
次の本も次もと シリーズ半分くらいまで すべてフリガナをふるハメになり大変だった私の思い出もおまけでついてきます(笑)
彼のこうした社会活動には
高い評価とともに 批判があることも事実
それについて
私が特に述べるべきことはありませんが
ただ この空間を訪れて目にしたのは
我が子に読み聞かせる
お母さんお父さんたちの優しいお顔
夢中になって本と向き合う
子どもたちの眼差しだったことは
書き記しておきたいと思います